01
Introduction
Observation started
観測開始
私たちは星系ルミレから派遣された観測員。 地球の鱗翅目(蝶と蛾)という「小さな宝石」を調査するため、この場所に拠点を築きました。
私の制作の傍らには、
二人の静かな観測員がいます。
彼らがやってきたのは、遥か彼方――
光に満ちた星系ルミレ。
そこは、すべてが白と黒のコントラストで描かれた、
切り絵のように明快で、美しいモノトーンの宇宙の森です。
彼らの故郷には、
「色」という概念が存在しません。
木々も、花も、空も、
すべては輪郭だけで形作られた世界。
ただひとつの例外を除いて。
それが、彼らの翅から零れる
虹色の鱗粉――クロマルス。
クロマルスは、個体ごとに異なる
魂の形を映した、唯一の光の波長。
無彩色の宇宙において、
それだけが世界に差異と揺らぎをもたらします。
私たちは星系ルミレから派遣された観測員。 地球の鱗翅目(蝶と蛾)という「小さな宝石」を調査するため、この場所に拠点を築きました。
蛾の姿をした、経験豊富なベテラン観測官。
知的で静かな視点から、地球の鱗翅目を観測・記録する。
感情の起伏は穏やかだが、
美しいものに向ける敬意は誰よりも深い。
彼女の翅に浮かぶ青いグラデーションは、
これまでに蓄積された膨大な観測記録を示す
「知識の集積体」。
切り絵作家・白氷蛾の制作過程を
**「最も効率的で、最も美しい翻訳作業」**と評価し、
強い信頼を寄せている。
「……やあ。
星系ルミレの一等観測官、アルバだ。
私たちの故郷は、
君たちが知る世界よりもずっと静かで、
白と黒が支配する場所だ。
だけど――
この星の鱗翅目たちがまとう色彩や、
白氷蛾の手によって切り出される
『光の模様』には、
私たちの星にも通じる美しさを感じている。
君も、この観測基地で、
私と一緒に地球の新たな一面を解析してみないかい?
……案外、悪い気分ではないはずだよ。」
好奇心のままに突き進む、
芋虫の姿をした元気いっぱいの新人観測員。
考えるより先に体が動くタイプで、
観測中に思わぬ脱線をすることもしばしば。
アルバを心から尊敬しているが、
その無邪気さに彼女が振り回される場面も多い。
彼にとって白氷蛾の切り絵は、
「未来の自分の姿」へのインスピレーション。
作品が完成するたび、
「僕、次はこんな模様がいいな!」と
目を輝かせている。
「地球のみんな、はじめまして!
観測候補生のリディです!
僕たちの体にある『虹色の鱗粉』、
アルバのはかっこいい青色だけど、
僕はまだ、こんなに鮮やかな緑色なんだ。
地球の美味しい葉っぱを
いっぱい食べてるからかな?
白氷蛾さんが作ってくれる切り絵はね、
僕たちの故郷の空を思い出させてくれる、
とっても不思議な魔法なんだよ。
僕もいつか、
あんなに綺麗な翅になれるように頑張るから、
応援してね!」
星系ルミレは、もともと「色」という概念が存在しないモノトーンの宇宙です。
木々も、花も、空も――
すべては切り絵のように明快な、白と黒のシルエットだけで構成されています。
そこでは、光と影だけが世界を形づくり、
色は名も、意味も持たないものでした。
この無彩色の世界に、唯一の彩りをもたらすもの。
それが、彼らが持つ虹色の鱗粉(クロマルス)です。
クロマルスは、彼ら一人ひとりが放つ
唯一無二の光の波長。
私たち地球人にとっての「声」や「指紋」のように、
同じ輝きを持つものは、宇宙に二つと存在しません。
ルミレの住人は、感情が高ぶると
クロマルスが翅から激しく舞い散り、
周囲の空気そのものを、ぱっと明るく染め上げます。
そして彼らが羽化する時、
その鱗粉がどの波長の光として定着するか――
それこそが、
ルミレにおける「成人の証」となるのです。
ルミレ星系には「文字」が存在しません。
彼らの記録はすべて、
切り抜かれた模様の重なりとして保存されています。
アルバたちが地球で集めた観測データも、
そのままでは、地球人には読むことができません。
私は切り絵作家として、
彼らが見つけた地球の「小さな宝石」――
鱗翅目(蝶と蛾)の観測記録を、
一枚の紙へと翻訳しています。
白と黒の紙は、
彼らが愛する故郷・星系ルミレの風景を。
繊細な切り込みは、
彼らがスキャンした生命の鼓動を。
そこに差し込む光は、
彼らが持つ唯一無二の虹色の記憶を。
二人が集めた地球の鱗翅目データは、
「切り絵」という形をとって、
地球の言葉と、地球の感覚へと翻訳されます。
繊細に切り抜かれた紙の模様は、
彼らの故郷・ルミレに溢れる光を再現するための、
特別な記録方法なのです。
モノトーンの世界から来た彼らにとって、
自分の鱗粉――クロマルスが
地球では「何色」に見えているのか。
それを正確に知る術は、実はありません。
私が切り絵の台紙を選び、
絵の具やインクの色を変えることで、
はじめて彼らは知るのです。
――あぁ、
――私の魂は、
――地球では、こんな色として解釈されるのか。
私が切り絵に込める色彩は、
彼らが放つ唯一無二の光の波長を、
この星の紙と絵具で再現しようとする試み。
それは、
色を持たない世界の記憶を、色のある世界へ届けるための、
ささやかな翻訳の記録なのです。
蛾を不気味だと思ったり、芋虫を遠ざけたりしてしまうのは、彼らが「宇宙から届いた手紙」であることを、まだ知らないからかもしれません。
この場所では、私の作品と、二人の調査報告を通じて、地球という星の鮮やかさを「ルミレの視点」で再発見していきます。 どうぞ、あなたもこの観測基地のゲストとして、白と黒の中に浮かび上がる虹を探してみてください。
