カテゴリー: トモエガ科
アメリカシロヒトリ
アメリカシロヒトリ

学名:Hyphantria cunea
- 分類:トモエガ科
- 前翅長:1 – 2cm前後
- 時期:5 - 9月
- 分布:北アメリカ・ヨーロッパ・東アジア

分類
アメリカシロヒトリはトモエガ科(Erebidae)に属しており、ヒトリガ亜科(Arctiidae)に分けられています。
ヒトリガ亜科のハイファントリア属(Hyphantria)に分けられています。
トモエガ科はノンネマイマイ、ハイパーコンプ・スクリボニアなど多数存在します。
生態
1年に2回発生する二化性です。時期は5 – 6月、7 – 9月に発生します。
生息域
北アメリカ原産の蛾でヨーロッパ、中国、韓国、日本などに外来種として移入分布しています。
日本では本州・四国・九州などに生息しています。
森林、公園、庭などに生息しています。


成虫
アメリカシロヒトリは摂食するかは不明です。
夜間に活動し、寿命が尽きる前に番(つがい)を探します。また、光に惹かれる性質があります。
交尾は約30〜60分間かけて行われます。卵は約200~1000個の塊で葉の裏に付けられます。
卵は約1週間で孵化します。
翅を開張すると2 – 4cm前後になる、小型の蛾です。

幼虫
成熟した幼虫の体色は灰色で、黒と黄色の斑点が節ごとに並んでいます。体は白色または薄い黄色の剛毛で覆われています。
多くの毛虫と異なり、毛に毒はありません。しかし、アレルギー反応を引き起こすことがあるので触るのは危険です。
幼虫は最大で3.5cmになります。
食草は広食性で主に落葉樹の葉を食べます。サクラ、ヤナギ、カキ、コナラ、リンゴなどおよそ100種類以上の樹木に害を及ぼすといわれています。
世界中で636種の樹木の葉を食べることが記録されており、最も広食性である昆虫の1つと考えられています。

成虫の見た目

アメリカシロヒトリは白色の翅とゴマのような小さな黒い斑点が特徴です。
基本的に全体は白色で構成されています。 この白色の翅にゴマのような小さな黒い斑点が混じります。しかし斑点が無い個体もいます。
北部では斑点が無い白い個体、南部では黒い斑点がある個体が出現する傾向があるようです。
腹部は白または茶色です。また、脚は白色と黒色で構成されていますが黄色の斑点がある個体もいます。
オスメスともに見た目に大きな違いはありません。


幼虫による食害
アメリカシロヒトリは北アメリカ原産の蛾ですが、第二次世界大戦後の貿易による物資に付いて渡来し、世界中に生息範囲を急速に広げました。
幼虫の習性によって、植物に甚大な被害を与えることで害虫として扱われています。その習性は次のようになります。
孵化した幼虫は糸を吐いて巣を作ります、巣の中で約10日間集団で葉を食べ、葉全体を食べると分散します。
分散した後、そのまま放置すると周囲の樹木まで被害が及びます。
枝や樹木全体が落葉することがあります。大量発生すると辺りの樹木を丸坊主にすることがあります。
繁殖力が非常に強く、メスは卵を約200~1000個産み、約1週間で孵化します。
また、メスは産卵後新しく産まれた卵を腹部の毛で覆うことによって卵を保護します。
幼虫自身も防御行動をとります。例えば、仲間と一緒に揺れたりけいれんしたり、生き物が嫌う匂いを出したりします。
日本では1970年代から1980年代にかけて大発生しました。また、糞によって樹木の周辺が汚れる被害もあります。
現在でもアメリカシロヒトリを駆除する薬剤散布が全国各地で行われています。また、幼虫が分散する前に巣ごと枝を切り落として駆除する方法もあります。
鳥や寄生バチなどの捕食者によって、大規模な発生は減ったとされています。


まとめ
子どもの頃に、毎年母が「今日はアメシロの日だから、窓を開けないでね」と言っていました。
アメシロは毛虫だということは知っていましたが、アメリカシロヒトリの略した名前ということは成人した後に知りました。
また、成虫の姿を見たのも大人になってからです。


ハイパーコンプ・スクリボニア
ハイパーコンプ・スクリボニア

学名:Hypercompe scribonia
- 分類:トモエガ科
- 前翅長:4 – 5cm前後
- 時期:4 - 9月
- 分布:アメリカ合衆国南東部

分類
ハイパーコンプ・スクリボニアはトモエガ科(Erebidae)に属しており、ヒトリガ亜科(Arctiidae)に分けられています。
ヒトリガ亜科のハイパーコンプ属(Hypercompe)に分けられています。
Nieukerken et al. (2011)に従い、ヒトリガ科とドクガ科はトモエガ科に含まれるようになりました。
そのため、アメリカシロヒトリなどのヒトリガ科は、トモエガ科ヒトリガ亜科と亜科として再分類されました。
※本種は和名が名づけられていません。本記事では学名を和訳した通称で紹介していきます。
生態
地域によって発生数は異なります。北部では1回発生する一化性で、南部では2回発生する二化性です。
生息域
ニューイングランド地方、フロリダ州、ミシガン州、アーカンソー州、テキサス州などの主にアメリカ合衆国南東部に生息しています。
また、カナダのオンタリオ州などの北部、メキシコやパナマなどの南部にも生息しています。
森林、公園、草原などに生息しています。


成虫
ハイパーコンプ・スクリボニアは摂食するかは不明です。
夜間に活動し、寿命が尽きる前に番(つがい)を探します。また、オスは光に惹かれる性質があります。
交尾中、オスの翅がメスの体の大部分を覆います。これにより、メスの翅の鱗粉が失われ、飛行に悪影響を及ぼすことがあります。交尾後のメスは翅の後ろ側の部分が透明になります。
ハイパーコンプ・スクリボニアの交尾は非常に長く、24時間以上かかります。
交尾中はほとんど動かないままですが、場所から場所に移動して体温調節し、暑すぎると影のある場所に行き、寒すぎると日光に当たる場所に移動します。
翅を開張すると6 – 9cm前後になる、中型の蛾です。

幼虫

成熟した幼虫の体色は黒と赤の縞模様になっています。体は光沢のある黒い剛毛で覆われています。しかし、腹側には毛が一切ありません。
多くの毛虫と異なり、毛に毒はありません。しかし、体内に毒があると考えられています。
触ると腹側を守るために体をボールのように丸めます。
食草は広食性で多種多様の植物を食べます。主にオオバコ、クワ、バナナ、レタス、柑橘類などの植物を食べます。

成虫の見た目


ハイパーコンプ・スクリボニアは白色の翅と豹のような斑点が特徴です。
基本的に全体は白色で構成されています。 この白色の翅に規則的な青黒色の斑点が混じります。しかし斑点は、黒色で中心が白の斑点など個体差があります。
また、脚は白色と黒色で構成されています。
ハイパーコンプ・スクリボニアには性的二系があります。 オスの方が体が大きく、メスの方がオスより体が小さいです。


ハイパーコンプ・スクリボニアの防御機能
ハイパーコンプ・スクリボニアは全体的にモノトーンの色合いですが、胴体の色は非常に派手で毒々しい見た目をしています。
胴体はオレンジ色で光沢のある紺色の模様があります。
成虫は捕食者に脅かされたときに「死んだふり」をし、腹部を丸めて明るい派手な色の胴体を見せます。これは警告色を見せることで捕食者に捕食されないようにする行動であると考えられています。
また、化学的防御として、黄色の液体を放出します。これには苦みがあるそうです。


まとめ
今までの記事で紹介したヒトリガ科とドクガ科をトモエガ科に修正、統合しました。
2011年と比較的最近に再分類されたため、まだまだ浸透していないかもしれませんが、このブログでは今後ヒトリガ科とドクガ科はトモエガ科と示すことにします。


ノンネマイマイ
ノンネマイマイ

学名:Lymantria monacha
- 分類:トモエガ科
- 前翅長:2 – 3cm前後
- 時期:7 - 8月
- 分布:ヨーロッパ・ユーラシア大陸

分類
ノンネマイマイはトモエガ科に属しており、ドクガ亜科に分けられています。
マイマイガ属に分けられています。
ドクガ亜科はヤナギドクガ、マイマイガなど多数存在します。
生態
1年に1回発生する一化性です。
生息域
主にヨーロッパ、ユーラシア大陸に生息しています。
日本では北海道・本州・九州・南西諸島など全国的に見られます。
森林、山地などに生息しています。


成虫
ノンネマイマイは口吻自体が退化して摂食せず、幼虫時代に蓄積された栄養だけで活動します。
ドクガ科に属していますが、成虫幼虫共に毒はありません。しかし。1齢幼虫には毒毛があり、触るとかぶれや発疹がおきます。
夜間に活動し、寿命が尽きる前に番(つがい)を探します。
メスは夜に揮発性の性フェロモンを放出し、オスは飛んで、大きな触角を介してこれを検出します。 オスはフェロモンを数メートルの距離で検出し、フェロモンが来ている方向に飛んでメスに到達することができます。オスがメスに到達すれば交尾が始まります。
交尾したメスはフェロモンの放出を止めて、木の樹皮の隙間に約20 – 50個の卵を産みます。
翅を開張すると4 – 5cm前後になる、小型の蛾です。

幼虫
成熟した幼虫の体色は灰色で全身白い毛で覆われた毛虫です。背面に2列の青い突起と中央にオレンジ色の突起が並んでいます。
体長は6cm前後になります。
食草は広食性で多種多様な広葉樹を食べます。主にヨーロッパトウヒ、カラマツ、松、シラカンバ、ブナ、クヌギなどを食べます。
非常に食欲旺盛で落葉を引き起こし、ヨーロッパトウヒや松の木が死んでしまうことがあります。
ヨーロッパでは林業に大きな損害を与える、森林害虫とされています。

成虫の見た目

ノンネマイマイは白い翅と黒の斑点・縞模様が特徴です。
基本的に全体は白色で構成されています。翅には黒の斑点と複雑な縞模様があります。 この模様は個体ごとに異なり、同じ模様を持った個体はいないといわれています。
首の周りには赤い毛があります。胴体は白っぽいピンク色で黒の縦線があります。
ノンネマイマイには性的二系があります。メスの触覚はシンプルな形をしていますが、オスの触角は櫛歯状になっています。また、オスの羽は丸みがありません。


ノンネマイマイの名前の由来
ノンネマイマイの「Nonne」(ノンネ)はドイツ語で尼僧・修道女を示す言葉です。
マイマイガは漢字で書くと「舞々蛾」になります。飛んでいる姿がひらひらと舞っているように見える蛾と言う意味で付けられました。
また、英名で「nun moth」(修道女蛾)と呼ばれています。
修道女(シスター)のような配色と美しさ、ひらひらと舞う姿からこのような名前がつけられたのかもしれません。


まとめ
ドクガ亜科の成虫はオスとメスの見た目・模様が大きく異なっているものもいますが、ノンネマイマイはオスとメスで大きな違いは特にありません。


ガンソアマヒトリ
ガンソアマヒトリ

学名:Phragmatobia fuliginosa
- 分類:トモエガ科
- 前翅長:2cm前後
- 時期:5 - 8月
- 分布:ヨーロッパ・ユーラシア大陸北部

生態
地域によって発生数が異なります。北部では1年に1回発生する一化性です。
南部では1年に2 – 3回発生する多化性です。
生息域
ヨーロッパ、北アフリカ、ロシア、中央アジア、チベット、そして北アメリカの北部に生息しています。 主にヨーロッパ、ユーラシア大陸北部に生息しています。
落葉樹林、道路、庭園などに生息しています。


成虫
ガンソアマヒトリは夜間に活動します。光に惹かれる性質を持ち、光源の周囲を渦を描くように飛びまわる走光性を持ちます。
摂食するのかは不明です。
翅を開張すると3.5 – 4.5cm前後になります。

幼虫

成熟した幼虫は明るい茶色または暗い灰色をしています。全身長い毛で覆われた毛虫です。
頭部はオレンジまたは黒褐色です。
食草は広食性で多種多様な植物を食べます。主にキイチゴ属、スピノサスモモ、ヘラオオバコ、ヒメシャクナゲなどです。

成虫の見た目


ガンソアマヒトリは茶色の前翅と黒と赤の後翅が特徴です。
茶色の前翅には翅の下側に2つの黒い小さな斑点があります。
後翅は内側が薄い赤で外側に向かって黒色になります。縁は赤で彩られています。また、後翅にも翅の下側に2つの黒い小さな斑点
翅の裏側は表側より全体的に薄くなります。
胴体ははっきりとした赤色で横に黒い斑点が並んでいます。頭部付近は茶色の毛で覆われています。前脚部分が赤色になっています。


ガンソアマヒトリとアマヒトリ
ガンソアマヒトリは東アジアには生息していませんが、同属のアマヒトリ(学名:Phragmatobia amurensis)はロシア、日本、朝鮮半島などに生息しています。
どちらも非常に似た外見をしています。
アマヒトリはガンソアマヒトリの「代替種」と考えられています。代替種とは類縁種で別地方で同じ生態をしている種のことです。
アマヒトリは7 – 8月と夏ごろに見られます。また、アマヒトリは平成11年北海道でハウスメロンの害虫とされました。


まとめ
ガンソアマヒトリは生息範囲が広く、ポピュラーな蛾ですが、解明されていないのか情報が少なく謎の多い蛾です。


ヒトリガ
ヒトリガ

学名:Arctia caja
- 分類:トモエガ科
- 前翅長:4cm前後
- 時期:7 - 9月
- 分布:ユーラシア大陸・北アメリカ

分類
ヒトリガはトモエガ科に属しており、その中のヒトリガ亜科に分けられていてます。
ヒトリガ亜科のヒトリガ属に分けられています。
ヒトリガ亜科はアメリカシロヒトリ、ハイパーコンプ・スクリボニアなど多数存在します。
生態
1年に1回発生する一化性です。
生息域
ヨーロッパ、北アメリカ、アジアなどの主にユーラシア大陸全土と北アメリカに生息しています。
ヒトリガは幼虫の状態で越冬するため、温暖な季節性のある寒冷気候を好みます。
幼虫は落ち葉の下などで越冬し、翌年の6 – 7月までに蛹化します。成虫は7 – 8月までに羽化します。
日本では北海道・本州などで見られます。
森林、山地、公園、庭、草原などに生息しています。


成虫
ヒトリガは夜間に活動し、様々な花から吸蜜します。
光に惹かれる性質を持ち、光源の周囲を渦を描くように飛びまわる走光性を持ちます。
たき火などの明るさにつられて、最終的に自ら火に飛び込んで焼け死ぬことがあり、和名の「ヒトリガ」(灯取蛾)もこれに由来します。
また自ら進んで災いの中に飛び込んだり、災難を招くことを指す「飛んで火に入る夏の虫」ということわざも、このような習性から生まれたものです。
他の夜行性の昆虫も光に向かって飛ぶ習性を持つため、人間は誘蛾灯などでおびきよせ害虫を駆除していました。
翅を開張すると4.5 – 6.5cm前後になります。

幼虫
成熟した幼虫は赤茶色の長い毛で全身を覆っています。まさに毛虫といった外見をしています。
エサを求めて地上を積極的に移動します。なお移動中、身に危険を感じるとひっくり返って死んだふりをします。
食草は広食性で多種多様な植物を食べます。庭木のキイチゴ、ブラックベリー、スイカズラ、クワなどを食べるため、農家や園芸家から嫌われています。

成虫の見た目

ヒトリガは前翅と後翅の模様が大きく異なることが特徴です。
茶色の前翅には白い縞模様があります。朱色の後翅は黒の大きな斑点があります。
触角は白色で頭部付近は茶色の毛で覆われています。胴体は朱色です。


ヒトリガの毒性
ヒトリガの成虫の後翅は非常に目立つ朱色をしています。
実はこれは毒を持っていることを示す警戒色です。ヒトリガの毒を持つ経緯は次のようになります。
幼虫
幼虫は毒であるピロリジジンアルカロイドを含んだ植物を優先的に食べます。しかし、幼虫は広食性でさまざまな植物から毒性化合物を取り込んでいます。
見た目が毒々しい毛虫そのものの幼虫ですが、実際に毛に毒はないといわれています。しかし、食草に含まれたアルカロイドなどの毒を体内に含有しているので、鳥のように摂食する分には有毒です。
また、幼虫の毛がアレルゲンとなり発疹や炎症などを引き起こすことがあります。
同じヒトリガ科の幼虫の中には、毛が有毒の毒針毛があるため、毛虫を素手で触れるのは危険です。
成虫
幼虫のころに蓄えた毒は成虫になっても体液などに残ったままです。翅の目立つ色と模様は捕食者への警告色として役立ちます。
ヒトリガの毒性についてはまだ解明されていませんが、アセチルコリン受容体を妨害することによって作用する神経毒作用を示すコリンエステルであると考えられています。
ヒトリガの成虫は危険を感じたらすばやく後翅の警告色を示して飛びます。
また、コリンエステルを噴霧することもあるそうです。


まとめ
ヒトリガは翅を使って音を出すことができ、人間に聞こえる高音のきしむ音を発することができます。
ヒトリガの音によりコウモリは有害な蛾を回避するため、これらの音はコウモリの行動に影響を与えることがわかっています。

